最近ひょんなことから、宮城県知事浅野史郎さんの著書を2冊(※1)ばかり読んだ。共に常連客として時々顔を出す店(※2)に、サイン入りのものが置いてあったのがきっかけである。
浅野知事とはその店で実際に遭遇したことはない。浅野さんの選挙は「勝手連」という自発的に応援する人達によって支えられているが、同じような言い方をすれば「勝手友」といえる。いやいや、向こうは偉い人でこちらは手下みたいなものであるから、「勝手下」とでも呼んでおいた方が無難である。
読み進んで行くうちに、「インターネット時代のマーケティング」の本を読んでいるかのような錯覚に陥ってしまった。
まず、無名のまま選挙に出て当選する過程は、ベンチャー起業家が勃興する時のイメージにダブって見える。
メジャーな政党の推薦もなく、組織も整わないまま選挙に打って出て、大政党の推薦の元に、数々の団体に支えられた相手の候補者を破って見事当選するところは、まるで新たなビジネスモデルを引っ提げて、既得権を持つ大企業(オールドエコノミー)の間隙を突いて新規事業を開拓して行く、ベンチャー起業家の姿そのものである。
中間業者(政党)を経由せず、消費者(住民)のニーズを取り込むところが、いかにもインターネット時代のマーケティングらしい。
次に、お金の掛からないPR活動に積極的に取り組んでいるところも、ネット時代の広報・宣伝活動の定石に似ている。
例えば、オンラインショッピングの運営者達は、いかに「記事」に取り上げて貰えるか、知恵を絞る。
知事の場合、旺盛な好奇心も手伝って実に多彩な活動をしている。本人はPRとは思っていないかも知れないが、ちょっと例をあげてみると、・地元FM局で隔週放送される番組「シローと夢トーク」のDJを担当。
ここでは大ファンのエルヴィス・プレスリーの曲だけを流す。 (残念ながらこの番組は終了したとのこと)
・白石市の新ホールのこけら落としで、オーケストラをバックにプレスリーを歌う。
・公的介護保険普及のためのアマチュア劇団の公演、「今、とのさま介護中」に藩主 浅野史郎陸奥守の役で介護保険の準備状況視察の場面に出演。
・TBSのサンデーモーニングを初めマスコミの番組や取材、記者会見には積極的に 出演。
ざっとこんな具合である。
三つ目のポイントは「供給者の論理から利用者の論理へ」が徹底されているところである。「インターネット時代のマーケティング」は消費者のニーズを、きめ細かく取り込んだものでなければ通用しない。
知事になって最初の政治的決断は、三本木町に建設予定の障害者のための居住型施設群の計画に待ったを掛けた事である。「どんなに障害が重い人でも地域の中で当たり前の生活を送れるようにする」が知事の持論であるが、計画が「供給者」の論理で進められ、健常者とともに普通に生活したい、という「利用者」の要望に基づいていない事が見直しの最大の理由であった。
一言つけ加えれば、知事の言う「障害者が住みよいところは健常者にとってもよい」は、これからの商品開発のヒントになる。
障害者に取って便利なものは、健常者に取っても利用価値が高い事は、拙著「間違いだらけのIT常識」(明日香出版)の中でも、アニモ社の視覚障害者向け「音読サービス」開発の事例として紹介させて頂いた。
インターネット関連のビジネス書が多数出回っているが、浅野知事の本を読んだ方がよっぽどマーケティングの勉強になる。
※1、「誰のための福祉か」(走りながら考えた) 岩波書店 同時代ライブラリー
「福祉立国への挑戦」(ジョギング知事のはしり書き) 本の森
2、新橋・2BEAT(http://homepage2.nifty.com/2BEAT/)
Business@niftyコラム「eビジネスの基本」2001.05.29掲載
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