有限会社イーアレー
■現在位置[サイトマップ]:ホーム>鳥井閑の実践的作詞作曲講座

鳥井閑の実践的作詞作曲講座

鳥井閑の実践的作詞作曲講座in2BEAT

 

-1- 海 2001年10月5日
 10月5日の金曜日、鳥井閑による「作詞作曲講座」なるものが開かれると聞いた私は、新橋の2BEATという音楽好きが集まる店を訪れた。日ごろ音楽は聴くものの自分で作ったことばど無い私が「作詞作曲講座」に興味を持ったのは、先日初めてこの店を訪れたときに、カウンターでカントリーやフォーク、日本のポップスとそれぞれに好きな歌を歌う常連客達の楽しげな様子を見たからかもしれない。マスターのギター伴奏、ボーカル兼ウェイトレスとして働く綾ちゃんの歌、そしてママの作るオリジナルスパイスをたっぷり使った料理も魅力的だった。
 
 その日私は7時過ぎに2BEATに訪れた。カウンターには既に一人二人と客がいて飲み始めている。仕事帰りの私は腹が減っていたので、チキンガンボという米国南部のスープを頼んだ。これはママが、鳥と豚を沢山の野菜と共に二日間かけて煮込み、秘伝のスパイスをたっぷり使って仕上げるスープで、一口食べればその濃厚な味が胃にしみわたり、体の芯から満たされる一品だ。さて、空腹がおさまってから今度はゆっくり店内を見渡すとカウンターはすっかり客で埋まり、綾ちゃんが歌う準備を始めている。そのとき初めて私は鳥井氏を紹介していただいた。氏は隅のテーブルで酒を前に神妙な面持ちであった。聞けば人に歌を教えることは初めてで、さすがに緊張は隠せないとのことである。この店では、オリジナル曲を歌う客も珍しくないが、彼はこれまで書き溜めた曲が30曲余りになったため、この際思いきってそのすべてを2BEATで披露しようということから今回の企画が成ったそうだ。
 
 店全体に心地よく酒がまわり出したころを見計らって2BEATのミュージックタイムが綾ちゃんの"テネシーワルツ"で始まった。綾ちゃんの艶っぽい声が目の前のカウンターの客を圧倒する。
「歌が上手くなったよね」という客の冗談に、綾ちゃんは「参ったか〜〜」と返事を返した。続いて二曲、綾ちゃんが歌った。そして遂に鳥井閑の出番である。
 鳥井氏がカウンターの演奏スペースに入る。ギターを抱えて軽くハミングする鳥井氏に店内の空気が集中する。先ほどの控えめな印象とはがらりと変わり、そこには一人のミュージシャンの姿があった。
 第1回目の「実践的作詞作曲講座」のテーマは"海"である。鳥井氏はギターを爪弾きながら今日の歌のテーマについて、「男のロマンですね」と述べた。その言葉に店内は大盛り上がり、拍手に加えて綾ちゃんの「トリカ〜ン」という呼びかけが入る。さっそく略称がついてしまった。
 鳥井氏が主役なのだが、まわりからのツコッミが多くてなかなか先に進めない。しかしそれもまた一興なのだろう。店内が少し落ち着いたところで鳥井氏はギターを抱えなおし、ようやく歌い始めた。
 彼の柔らかい声が流れだした。一曲目は海そのものを歌ったものである。

♪海 風 夢♪

僕の好きなものは 海 風 夢
珊瑚礁の光る海で 魚みたいに泳ぎたい
飛び散る飛沫(しぶき) 弾む力 打ち寄せるさざ波
僕の夢は珊瑚の海 海のような広い心

僕の好きなものは 海 風 夢
椰子の繁る白い浜で 風に吹かれて眠りたい
耳に響く愛の言葉 椰子の葉のささやき
僕の夢は優しい風 風のような気儘な旅

風に吹かれて 南の島へ 流されて行きたい

僕の好きなものは 海 風 夢
月のあかり 灯る村で 島の人と踊りたい
夢のような夜の調べ 素朴なメロディー
僕の夢は南の島 海と風と通う心

僕の夢は南の島 忘れかけた心の故郷(ふるさと)

「僕は大体歌詞を先につくってそれに曲をあてるのです。大切なのは言葉で、メロディーは歌詞の雰囲気に合わせますね。」「この曲のメロディーは森山良子の"さとうきび畑"に似ていませんか?」そう言って鳥井閑は"さとうきび畑"の1フレーズを口ずさむ。メロディーそのものが、というよりは二つの曲に流れる雰囲気に共通のものが感じられた。

「二曲目は民宿大門の曲です。ママはこれは民謡の歌詞のようだといってるのですがそうではないんですよ。」
「まあ。これはコマーシャルソングですね。」
大門とは伊豆の少し先の吉佐美というところにある民宿だそうだ。先ほどとは少し変わってテンポの良いリズムが流れだした。

♪民宿大門(おおかど)の詩(うた)♪

松青く 海は眩しく 汚れ知らない白い砂
都会の塵を遠ざける 伊豆の海なら入田浜
潮の香漂う民宿は 吉佐美(きさみ)の大門 日本一

波騒ぎ 夢を運ぶ 君を酔わせる夜の浜
花火の音に誘われて 歌声夜空に響かせる
いつしか心も広い海 民宿大門いいところ

撓(たわ)わに 実る蜜柑山 夕餉飾る海の幸
自然の中で大らかに 今夜も乗ってる親爺さん
焼酎あおれば歌も出る 民宿大門また来るよ

民宿大門また来るよ

「この歌は知床旅情や琵琶周航歌のイメージを少し入れています。」 曲の雰囲気についてひとしきり議論が交わされた。ママは「学校ででも歌えそうな曲ね」 と少しお気に入りの様子である。
「この"親爺さん"にはちゃんとモデルがいるのですよ。"焼酎あおれば"この部分は何とかならないかと頼まれました。」
「かえてあげたんだ?」と綾ちゃん。
「いや、そのままです。」
 
 歌のテーマとは何でも良いのだな、と思った。ふと浮かんできた言葉をメロディーに乗せて口ずさむ。それが歌の始まりだと鳥井氏に教えられた気がした。
 その後も2BEATではミュージックタイムが続く。この店には客が順番に歌うというルールがあるようで、新参者の私は辞退したのだが常連客達におだてられてついにマイクを握ることとなった。歌っているうちに自然とその場の空気にすっかり馴染んでいる自分に気付き少し驚いた。2BEATでは誰もが自分のステージを持てるのだ。鳥井閑は緊張がすっかり解けたようで、酒を口に運びながら他の客の歌を聴いている。
 誰もが自分の歌を持っている。2BEATに沢山の人が訪れるのはそんな自分の歌を歌うことが出来るからだろう。鳥井閑の「作詞作曲講座」は歌というものについて考えるヒントを私に与えてくれた。

文責 ゆうき

 
-1- 2001年10月5日
 
| ホーム | IT事例 | プロフィール | お問合せ | サイトマップ |
© 2001-2005 e-alley